火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和7年9月15日から20日までの6日間、北海道の有珠山(洞爺湖町、壮瞥町、伊達市)においてフィールド実習を行いました。全国12の大学から、地球物理学、地質・岩石学、地球化学を専攻する大学院生21名と特別聴講生2名、教員11名が参加しました。
全体共通の講義や巡検以外は、地球物理、地質・岩石、地球化学の各コースに分かれました。受講生は普段専攻している分野ではないコースに配属され、講義を受講し野外観測およびデータ分析を行いました。
9月17日午前に、橋本武志教授(北海道大学)による火山の地磁気観測についての講義がありました。まず地球の磁場(地磁気)の基礎知識や磁場の時間変化から地下の温度圧力変化を推定する磁気探査手法、実習で使用するオーバーハウザー磁力計の原理についての説明があり、その後測定時に金属類(磁性体)を身につけないことなど、観測時の所作を学びました。講義後は全員で小有珠西麓の1点、その後3名および4名の2班に分かれ地磁気観測を行いました。橋本教授、青山教授、田中良助教(北海道大学)の指導の下、測定者は磁気センサが取り付けられた約2 mのポールを数分間垂直に保ち、有珠山火口周辺の各観測ポイントでの磁場を測定しました。
9月18日午前も引き続き地磁気観測を実施し、約30点の全ての観測点での測定を計画通りに完了しました。帰宿後は磁力計からデータの読み出しと整理を行い、時間変化の傾向や空間パターンを確認しました。
9月19日は橋本教授より、地表での地磁気観測データと磁気双極子モデルの比較から地下の地磁気変動源を推定する際の原理と手法についての講義がありました。その後は取得データをもとに、有珠山の浅部地下にある地磁気変動源の場所を推定しました。
9月17日の午前中には、伴雅雄教授(山形大学)が「火山地質概論」と題して、噴火タイプと分類、噴火堆積物の種類と判別、火山体とその構造に関する講義を行い、地層から噴火の様式や履歴などの情報から過去の火山現象を復元する方法を解説し、また「火山地形概論」と題して、様々な火山地形の特徴及び、火山地形から火山形成史を推定する方法を講義しました。さらに栗谷教授より地質学および物質科学的観点から見た1977-78噴火の推移、およびこの日行う野外調査についての説明がありました。 講義後は栗谷教授、吉村俊平准教授(北海道大学)、伴教授の指導のもと、野外実習が行われました。有珠山火口縁付近においてスコップを用いて約2m四方の地層の面出し作業を行った後に、現れた1822年及び1977-78年の噴火による多数枚のテフラ堆積物について、ユニット区分を行う方法、各テフラの特徴を捉え柱状図を作成する方法、さらにその特徴から噴火の推移を復元する方法を学びました。また、翌日の室内実習で使用する降下軽石サンプルの採取を行いました。
18日は吉村准教授の指導のもと、前日に採取したサンプルを実体顕微鏡で観察し、含まれる鉱物の種類を同定することでマグマ溜まりの温度や圧力を推定しました。
19日は白色軽石と灰色軽石の発泡度の違いを調べるほか、それまでの実習をもとにしたマグマの発泡シミュレーションにより軽石が形成されるマグマ破砕面の深度推定を行いました。
9月17日は、野上健治教授(東京科学大学)による、火山における化学観測と分析、火山活動や噴火現象との関連性についての講義を受けました。引き続き、森俊哉准教授(東京大学)による、火山ガスの土壌拡散放出測定により、火山の地下構造や、マグマ・熱水系の活動の変化を調べる研究手法について、講義を受けました。その後、CO2拡散フラックスの測定機器の使い方、土壌ガスの採取方法、及び標準ガスを用いた機器の出力の確認や分析手順を教わりました。午後には、昭和新山に向かい、南西斜面で土壌から放出されるCO2拡散フラックスの測定と土壌温度の測定、土壌ガスの採取を行いました。
9月18日には、昭和新山南西側の別の斜面で数十点の測定を行いました。また、野上先生の開発した機器によるCO2フラックス連続測定を行いました。
9月19日は、午前中には、採取した土壌ガスのCO2濃度測定方法を学び、試料の分析を行いました。午後には、昭和新山で測定したデータを解析し、昭和新山の土壌ガス放出過程について考察しました。
最終日の9月20日は、各コースでの実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生および特別聴講生による発表に関して、活発な質疑応答が交わされました。最後に参加した先生方による講評を行い、表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。