火山研究人材育成コンソーシアム構築事業

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インタビュー&レポート

霧島山でフィールド実習を実施しました
(平成29年3月12日~17日)


インタビュー&レポート

1.概要

写真1 霧島山(宮崎県えびの市)にて平成29年3月12日から17日まで実施されたフィールド実習のようす

 火山学に関する地球物理学や地質・岩石学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、3月12日から17日までの5日間、鹿児島・宮崎県境に位置する霧島山(宮崎県えびの市)においてフィールド実習を行いました。北は北海道から南は鹿児島まで、本コンソーシアムに参画する全国10の大学から、地球物理学や地質・岩石学を専攻する大学生・大学院生ら21名と教員10名が参加しました。

 これまで学生たちは、所属する各大学の専攻で、その専門性を高めるための勉強や研究を中心に進めてきましたが、学際性も伸ばしながら研究を進めるため、本コンソーシアムでは全国の大学が連携して学際的な火山学を体系的に学べる環境を整備しています。今回の実習では、火山学に関連する他分野への関心や理解を深めてもらうことをねらいとして、地球物理学を主に専攻する受講生は地質・岩石コース班、地質・岩石学を専攻する受講生は地球物理コース班に分かれて、普段の専攻とは異なる分野で、物理計測や地質岩石調査の講義、並びに活火山現場での実習を行いました。

2.全班共通活動

●【アイスブレイク】ポスター発表

写真2 ポスター発表のようす

 初日は、受講生の自己紹介を兼ねたポスター発表を行いました。受講生は、学会等の発表資料を部屋の床に広げて、他の受講生や教員らと膝を突き合わせながら、熱心に質問や議論を交わしていました。受講生からは「同じ火山を研究対象としながら、これほど幅広い研究が行われていることに驚いた」といった声が聞かれました。

●【講義】霧島山について

「霧島の活動」
宮本毅 助教(東北大学 東北アジア研究センター 地球化学研究分野)
写真3 講義「霧島の活動」(東北大学・宮本毅助教)のようす

 2日目は、霧島山の活動について講義を行いました。講義では、はじめに宮本毅助教(東北大学 東北アジア研究センター 地球化学研究分野)が、霧島山の全体像を紹介しました。宮本助教は、テクトニクスにより南九州全体が動いている一角に霧島山が位置しており、それが火山群という特徴を形成することを、地質学のみならず測地学や古地磁気学などの記録から複合的に読み解けることを解説しました。次に、霧島山の活動の中心が東寄りに動いている事例を紹介し、その形成史を解析する一つの手法として、テフラ(※1)の堆積状況を観察する方法を紹介しました。さらに、過去1万年間の噴火活動が霧島山では三ヵ所で集中して起こっており、互いにその活動が連動しているように見える一方、地下では異なる現象が起こっているという火山現象の複雑さを説明し、学術研究のみならず防災の観点からも今後解決すべき重要な課題であることを示しました。

※1テフラ:火山灰・軽石・スコリア・火砕流堆積物・火砕サージ堆積物などの総称


「2011年 霧島山新燃岳噴火のダイナミクス」
小園誠史 准教授(東北大学大学院 理学研究科 地球物理学専攻)
写真4 講義「2011年 霧島山新燃岳噴火のダイナミクス」(東北大学・小園誠史准教授)のようす

 続いて、小園誠史准教授(東北大学大学院 理学研究科 地球物理学専攻)が「2011年霧島山新燃岳噴火のダイナミクス」と題し、2011年に噴火した霧島山・新燃岳で多様な噴火様式が出現したこと、それを多項目の観測で捉えた研究について発表しました。特に、噴火規模の指標であるマグマ噴出率の高精度な推定に成功したことで、火山噴煙の物理の理解が格段に進んだことを紹介しました。小園准教授は「従来の地球物理学的観測に加えて、今後は人工衛星や気象レーダーなどによる新しいデータを組み合わせることで、火山噴火メカニズムの理解がより詳細に進むだろう」と話し、複雑な火山現象を他分野との深い連携によって理解していくことが、次世代の火山研究者に求められることを伝えました。

● 霧島山・新燃岳噴石落下痕の観察

 2日目は霧島山・韓国岳巡検の予定でしたが、雨天のため予定を変更して、2011年の噴火の際に生じた噴石落下痕2点を観察しました。新燃岳火口から南西約3㎞付近にある噴石落下痕は直径6 m、深さ2.5 mほどあり、噴石の速度や方向などを周囲の木がなぎ倒された方向などから推定できることが解説されました。現場で間近に見る噴石落下痕に受講生たちは「写真だけではわからない噴火のエネルギーに驚いた」などと話していました。

写真5 噴石落下痕 ①
写真6 噴石痕跡痕 ②


● 霧島山・韓国岳巡検
写真7 えびの高原から望む韓国岳

 3日目は天候に恵まれ、霧島山の最高峰である韓国岳(標高1,700m)で巡検を行いました。霧島山は約20万年前から現在まで活動が続いている活火山です。東西30km×南北20kmの範囲に、大きな火口をもつ20あまりの火山がひしめくように集まり、火山によって噴火のスタイルも火山地形も様々であることから、「火山の博物館」とも呼ばれています。

写真8 韓国岳山頂から望む新燃岳火口

 受講生たちは、韓国岳を登りながら、火山の地形や地質の違いなどを観察。山頂からは2011年に噴火したばかりの新燃岳を見下ろし、火口が溶岩で埋まっているようすなども観察しました。霧島の火山群を一望しながら、受講生たちは火山の息吹やスケールの大きさなどを体感していたようすでした。

写真9 ルーペで岩石を観察する受講生
写真10 韓国岳の山頂にて集合写真

 全体共通の講義や韓国岳巡検以外は、地質・岩石コース班と地球物理コース班に分かれて、それぞれ講義と実習が行われました。

3.地質・岩石コース班

● 講義「火山地質概論」「火山地形概論」

写真11 火山の地質や地形の概論を学ぶ受講生たち

 地質・岩石コース班では、はじめに中川光弘教授(北海道大学大学院理学研究院・地球惑星科学部門)が「火山地質概論」の講義を行い、地層から噴火の様式や履歴などの情報を読み取ることで、過去の火山現象を復元できることを概説しました。次に、伴雅雄教授(山形大学 理学部 地球環境学科)が「火山地形概論」の講義を行い、火山の地形を見ることで、噴出物の種類や火山形成史の大まかな推定が可能であることを説明しました。

● 山麓巡検

写真12 テフラ露頭を観察する受講生たち

 講義後の山麓巡検では、まず高千穂河原で、数百年前に噴火したばかりの溶岩流の断面や地形を観察しました。次に、御池周辺でテフラ露頭を観察し、噴火のない時期の土壌と噴火堆積物とを識別することで噴火の履歴を推定し、堆積物から噴火の推移や様式を推定する方法を学びました。さらに露頭の奥へと進んだ受講生たちは、約7,300年前の鬼界カルデラの大噴火に伴って広く東北地方まで広がったオレンジ色の火山灰(アカホヤ)を観察し、広域テフラが地層年代の測定に重要な鍵層となることを体感しました。その後、新湯周辺で火砕流堆積物の構造と分布の特徴などについて観察し、地質学的な調査方法を五感で体験しました。また、巡検後は韓国岳付近の地形分類図を作成し、形成史の推定にも挑戦しました。

● 講義「火山岩岩石学概論」、実習(実体顕微鏡、偏光顕微鏡)

写真13 偏光顕微鏡で火山岩の薄片を観察する受講生

 続いて「火山岩岩石学概論」では、金子克哉准教授(神戸大学大学院理学研究科 惑星学専攻)と東宮昭彦主任研究員(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)が、噴出したマグマが固まってできた岩石(火山岩)から、どのような情報を読み取ることができるかを解説しました。そして実体顕微鏡と偏光顕微鏡による観察方法を学んだ受講生たちは、実際に顕微鏡で造岩鉱物や火山灰を観察しながら、マグマの冷却に関する情報や噴火様式などの情報を読み取る体験をしました。

 受講生からは「普段は火山学会などで地質・岩石学の専門家から結果のみを聞いて議論をしているが、地質・岩石学的なデータを得るまでの調査・研究過程を初めて体験し、地質や岩石などからこれほど多くの情報を得られることに驚いた」といった声が聞かれました。

4.地球物理コース班

● 講義(水準測量概説)および実習(水準儀を用いた測定)

写真14 水準測量実習に関する講義のようす

 もう一方の地球物理コース班では、松島健准教授(九州大学理学研究院 附属地震火山観測研究センター)と山本圭吾助教(京都大学防災研究所附属火山活動研究センター)が、火山研究の地球物理学的アプローチの一つとして、火山性地盤変動の測定方法を概説しました。

 講義では、地下におけるマグマの活動に起因した地表面の変形である火山性地盤変動を測定する方法として、水準測量、GNSS(GPS等の衛星測位システムの総称)、水管傾斜計など様々な手法があることが紹介され、各方法の利点と欠点が解説されました。このうち今回の実習で学ぶ水準測量について、その原理と測定方法が詳しく説明されました。

 水準測量では、水準儀と標尺を用いて2地点間の高低差を求めることを繰り返すことで、地表面の上下変動量を測定します。水準測量は百年以上も前から行われている古典的な手法で、かつ測定作業には大きな労力を要しますが、0.1mmオーダーで上下変動を測ることができる精度の良さでは、現在も他の追随を許さない、重要な測定手法の一つです。

写真15 水準測量実習のようす

 また、松島准教授らが2015年6月から12月までの間、えびの高原付近で地盤上下変動を測量した結果についても解説がありました。松島准教授は、硫黄山を中心に10mmを超える隆起が観測されたこと、さらに物理モデルを用いて解析した結果、硫黄山の地下約700mに3.1万?の堆積膨張源が確認されたことを説明しました。

写真16 技術を習得しテンポよく測量する受講生

 講義後は、松島准教授らが測量した水準路線と同じルートで、受講生たちは約2日間かけて水準測量を行いました。受講生たちは水準儀と標尺を垂直に設置することにはじめは手間取っていたようすでしたが、実習が進むにつれて手際よくなるとともに、互いに声を掛け合いながら効率よく測量を行っていました。得られた測量の結果と、松島准教授らによる2015年6月時点のデータと比較して、硫黄山に一番近い地点で15mm隆起していることがわかりました。さらに、受講生たちは自分たちで測量したデータを用いて、地下どれくらいの深さにどれくらいの圧力源があるかを解析し、その結果を翌日の発表会で報告しました。

 受講生からは「地球物理学的手法といえば、パソコンでスマートに解析するイメージが強かったが、今回の実習を通じて、地質・岩石学での野外調査に通ずる苦労があることを知った」「普段は数十万年スケールで地質・岩石学の議論をしているが、今回『1年で数mmの隆起』という時間スケールで議論できたことが新鮮だった。噴火予知手法として地球物理学的視点を取り入れることの有効性を感じた」といった声がありました。

5.発表会・講評

 最終日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生たちは、7つのグループに分かれてそれぞれ発表し、また、活発な質疑応答が交わされました。最後に教員たちによる講評を行い、発表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。

● 発表会

1.「地形分類と韓国岳登山/硫黄山溶岩の薄片分析」
2.「霧島硫黄山の地盤上下変動(速報)」
3.「火砕流堆積物と溶岩流地形」
4.「水準測量を用いた霧島・硫黄山の地殻変動の検出とその考察」
5.「砂防ダム横のテフラ」
6.「霧島・硫黄山の地盤上下変動 part3」
7.「ルートマップ・顕微鏡実習」

写真17 受講生による発表会のようす
写真18 活発に質疑応答を交わす受講生たち


● 講評

山本 圭吾 助教(京都大学防災研究所附属火山活動研究センター)

 本実習の趣旨は、水準測量の技術そのものの習得よりも、この手法を一つの例として地球物理学ではどのように火山現象を研究するかを体験し理解してもらうことだった。水準測量自体は難しい技術だが、受講生たちはすぐ習得し、さらに当初想定していたレベルを大きく超え、結果に対する高度な議論も交わしていた。高度な議論には、講義などでさらなる情報が必要なため、今後より高レベルな内容を検討したい。

中尾 茂 教授(鹿児島大学理工学研究科)

 受講生は皆、夜遅くまで議論しながら課題に取り組み、発表内容も非常によくまとまっていた。色々な質問が出たが、自分がどんなデータを持っていて、それをどこまで自信をもって他人に勧められるかが重要と思う。自分の研究も、他人の結果を見る時も、どんなデータを使い、その結果はどこまで信頼できるかまで考えながら、今後の研究を進めていただきたい。

東宮 昭彦 主任研究員(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

 今回の実習で、細かな知識や技術を習得することは、さほど重要ではない。火山岩は色々な情報を持ち、見る人が見れば色々な情報を引き出せることがわかればよい。将来研究をして、例えば異分野のデータが必要になった時、「昔こんなことやったな」という感覚を持つことが大事。また今回、同じ火山研究をテーマに、全国の大学から学生たちが一堂に会して議論し合えたことは、将来の財産になるだろう。

宮本 毅 助教(東北大学 東北アジア研究センター 地球化学研究分野)

 地質学的な視点はあくまで一つの切り口であり、さらに色々な切り口があってよい。また、発表内容について気になったのは、例えば、火山灰は"ある"が、そこに来るまでは動いてきたはずで、そこまでイメージして知識も含めて理解できるようになると、さらに考察がおもしろくなる。

松島 健 准教授(九州大学理学研究院 附属地震火山観測研究センター)

 今回の水準測量実習で伝えたかったことは、自分で観測したデータだからこそ、その限界がわかるので、誤差論を総合的に判断できることである。実際に測量したことで、プラスマイナスどれくらいの誤差があるかがわかり、ぴったりフィッティングしても意味がないと実感できたと思う。インターネットからの情報ではそこまではわからない。このことは間違った結論を導かないために大切なことなので、今後に活かしてほしい。

金子 克哉 准教授(神戸大学大学院理学研究科 惑星学専攻)

 地質や岩石からの情報は映像的でなかなか定量化しづらく、様々な知識や想像力で情報を引き出すことが重要であることを、本実習を通じて実感してもらえたと思う。地球物理コース班の学生たちも、通常の水準測量実習とは違い、実際の活火山で、さらに山体膨張まで観測ができた経験は今後に役立つだろう。

小園 誠史 准教授(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻)

 本コンソーシアムの授業を通じて国際性や学際性を伸ばすことも大切だが、自分の大学に戻って専門の研究をしなければ、よい論文は書けない。本実習での他分野の体験を、単に視野を広げるためだけでなく、自分の研究に積極的にフィードバックをかけることで、よりよい研究ができると思う。今後もぜひ積極的に参加して欲しい。

● 総括

本事業責任者:西村 太志 教授(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻)

 受講生たちは積極的に他分野の知識を吸収しようと真摯に取り組み、短期間で他分野のことをよく理解していた。また最終日の発表会も、実習分野が発表を聞く側の専門分野であったので、非常に活発な質疑応答が行われ、よい試みだったと思う。

 受講生たちは、同じ火山研究という切り口で全国から集まり、行動をともにする中で次第に打ち解け、最終日の発表会では、具体的に学問の話をしながら議論をまとめていた。これから、互いの研究を刺激し合うよいきっかけになったと思う。

 第1回目の実習を実施して受講生から感想なども聞く中で、教員側としては実習の量や質に関して今後の検討課題が具体化した。火山の特徴を活かした実習は受講生の積極性を引き出すよいツールであることが改めてわかったので、今後も良い教材となる実習場所を探すことが重要になるだろう。

6.参加した学生の声

杉村 俊輔 さん(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻 修士2年)

 同じ地球物理学のバックグラウンドを持つ人たちと一緒に、同じ初学者の目線で地質や鉱物を見ることができたので、積極的に参加でき理解が深まった。また、地質・岩石学の人たちが地層や鉱物を見つけた瞬間、すぐ飛びついてその場で議論を始める研究姿勢に多くのことを学んだ。自分も得られたデータに対して、より貪欲に取り組みたい。

菅野 洋 さん(東京大学 地震研究所 博士1年)

地球物理学と地質・岩石学の学生を入れ替え、普段とは異なる分野を体験できたことが非常に楽しかった。特に最後の発表会で互いに質問し合うことで格段に理解が進んだ。発表をまとめる段階で「地質の人たちが露頭でなぜ厚さを測っていたか、なぜあれを見ていたか」がよくわかり、地質の人たちから質問を受ける段階で「なるほど、そこを見ておけばよかったのか」と二重、三重に考えるプロセスを体験できた点がとてもよかった。

森 亜津紗 さん(名古屋大学大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 修士2年)

 これまで他の火山分野の人たちと接する機会が少なかったため、同じ火山学を学ぶ学生が全国から集まり一緒に過ごしたこと自体、新鮮で楽しかった。私は基礎研究の成果を観測に活かすことを目指しているので、そのために実際の火山のようすや観測装置を知ることが大切だ。普段は波形解析が中心で、研究室の外に出て現場を見る機会があまり無かったため、今回の実習は今後の研究に活きる貴重な経験となった。

赤崎 文香 さん(鹿児島大学理学部 地球環境化学科 4年)

普段は火山地質を専門に勉強している。今回初めて水準測量を体験し、難しいこともあったが、楽しんで取り組むことができた。今後、地盤変動などをイメージしながら研究を進めることができると思う。本コンソーシアムでは、なかなか大学だけでは体験できないことを経験でき、他大学の先生からも研究に対する助言をいただけて、貴重な環境だと思う。火山を学ぶ他大学の学生たちとも議論して刺激をもらえ、参加してよかったと思う。