火山研究人材育成コンソーシアム構築事業

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インタビュー&レポート

有珠山でフィールド実習を実施しました
(令和3年10月7日~11日)


インタビュー&レポート

1.概要

火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和3年10月7日から11日までの5日間、北海道の有珠山(洞爺湖町、壮瞥町、伊達市)においてフィールド実習を行いました。全国11の大学から、地球物理学、地質・岩石学を専攻する大学院生19名と教員10名、協力団体の民間企業から2名が参加しました。

なお、有珠山火山防災協議会への事前説明、一立入禁止の区域内における活動、撮影、噴出物採取等の許可を得て今回の実習を実施しました。また、実習前後2週間の参加者の検温報告、巡検や調査時のバス・車による移動の乗車率制限、一人一部屋での宿泊など、新型コロナウィルス感染対策を十分行ったうえで実施しました。

2.全班共通活動

● 10月7日午後前半

実習中の宿泊ホテルに到着して、西村太志教授(東北大学)による実習開始の挨拶とガイダンスを行った後、有珠山に関する2つの講義を実施しました。

【講義】「有珠山の形成史とマグマ系」

中川光弘教授(北海道大学)が、地質学的・物質科学的な観点から有珠山を解説しました。約1.9万年前から開始した有珠山の活動の概要、山体崩壊の発生時期、17世紀末から19世紀にかけての爆発的噴⽕と溶岩ドーム形成が繰り返された歴史時代噴火の特徴、物質科学的研究によって明らかとなったマグマ供給系などについて解説があり、翌日以降の巡検や実習を進める上での基礎的な理解を深めました。

【講義】「有珠山の近年の火山活動」

青山 裕教授(北海道大学)が、地球物理学的観測に基づく20世紀以降の有珠山における噴火・火山活動の研究を紹介しました。1910年、1943-45年、1977-82年、2000年のマグマ噴火時の観測事例をもとに、有珠山はマグマ噴⽕の前には激しい地震活動などの明瞭な前兆を起こす「正直な⽕⼭」であることなどを講義しました。また、今年3月に発生した群発地震の活動について解説がありました。

● 10月8日午後

有珠山巡検

午前の各コース班での実習後、小有珠西麓に全員集合して巡検を開始しました。まず、1977-78年噴火の際にできた銀沼火口縁で、歴史時代に形成された大有珠(1853年)、有珠新山(1977-78年)、小有珠(1822年)の溶岩ドームなどの地形を遠望しながら、中川教授による有珠山の噴火活動履歴や解説、橋本武志教授(北海道大学)による有珠山の地球物理学的観測状況の解説がありました。次に、銀沼の北側で噴気活動を続けているI火口に移動し、田中 良助教(北海道大学)による有珠火山活動の現況に関する説明がありました。その後、小有珠の山頂に登り、有珠山全体の地形、洞爺湖や羊蹄山、北海道駒ヶ岳などを遠望観察しました。小有珠西麓まで下山後、地磁気定常観測点を見学しました。この日は好天に恵まれ、絶好の巡検日和になりました。


3.各班の実習(10月7日~11日)

全体共通の講義や巡検以外は、地球物理、地質・岩石、地球化学の各コース班に分かれて、それぞれ講義と実習が行われました。

● 地球物理コース班

10月7日に、橋本教授による、火山の地磁気観測についての講義がありました。地球の磁場(地磁気)の特徴,磁場の時間変化から地下の温度圧力変化を推定する磁気探査手法の原理や、実習で使用するオーバーハウザー磁力計について、講義がありました。その後、測定時に金属類(磁性体)を身につけないことなどの観測時の注意点など、地磁気観測の所作を学びました。

10月8日午前に、地磁気観測を開始しました。受講生は3名ずつの2班に分かれ、有珠山の北側と南側を分担して観測しました。測定者は磁気センサが取り付けられた約2 mのポールを数分間垂直に保ち、有珠山火口周辺の各観測ポイントでの磁場を測定しました。

10月9日は、引き続き地磁気観測を実施し計約25点の全ての観測点での測定を計画通りに完了しました。帰宿後、地表での地磁気観測データから地下の地磁気変動源を推定する原理とその解析手法について、橋本教授による講義がありました。

10月10日は、2班に分かれて取得した地磁気観測データをもとに、有珠山の浅部地下にある地磁気変動源の場所を推定しました。


● 地質・岩石コース班

10月7日は、中川教授が「火山地質概論」と題して、噴火タイプと分類、噴火堆積物の種類と判別、火山体とその構造、地層から噴火の様式や履歴などの情報を読み取ることで、過去の火山現象を復元できることを講義しました。次に、伴 雅雄教授(山形大学)が「火山地形概論」と題して、火山の地形を見ることで、噴⽕や⼭体崩壊などが発⽣した位置や⽕⼭噴出物の分布、噴出物の種類や火山形成史の大まかな推定が可能であることを学びました。

10月8、9日は、中川教授、伴教授、栗谷 豪教授(北海道大学)の指導のもと、野外実習が行われました。8日午前は、有珠山の南西側において、山体崩壊によって発生した善光寺岩屑なだれによってもたらされた流れ山堆積物や、基盤をなす洞爺火砕流堆積物などを観察しました。また、有珠山の北外輪に移動して崩壊壁の構成岩石を観察し、流れ山堆積物との比較を行いました。以上の観察から、山体崩壊の発生過程を議論しました。10月9日は、1977年に有珠山で発生した準プリニー式噴火でもたらされたテフラ堆積物路頭を観察することで、噴火の推移を復元する実習に取り組みました。小有珠の西麓と銀沼火口の南側にある路頭で、異なる時間・火口から発生した各噴火フェーズからもたらされた堆積物の特徴を注意深く観察し、柱状図を作成することで、路頭から噴火の推移を復元する手法を学びました。

10月10日は、吉村俊平助教(北海道大学)の指導のもと、前日に採取してきた降下軽石を実体顕微鏡で観察し、含まれる鉱物の種類を同定することで、マグマ溜まりの温度や圧力を推定しました。また、軽石の質量と体積から密度を測定し、軽石が形成されるマグマ破砕面の深度推定を行いました。


● 地球化学コース班

10月7日は、森田雅明研究員(産業技術総合研究所)が、火山ガスの土壌拡散放出測定により、火山の地下構造や、マグマ・熱水系の活動の変化を調べる研究手法について、オンラインで解説を行いました、続いて、小園誠史准教授(東北大学)と田中助教が、CO2フラックス測定機器、検知管式気体測定器などの使用方法を説明しました。次に、野上健治教授(東京工業大学)が、地球化学的手法に基づき火山活動を明らかにする観測研究についてオンラインで解説しました。

10月8日の午前は、有珠山のI火口付近と銀沼火口内において、土壌から放出されるCO2のフラックス測定を行いました。CO2フラックスを定点で長時間自動測定できる機器と、移動しながら多点で面的に高精度測定できる機器の2種類を用いて、観測を実施しました。また、熱電対温度計を用いた地下25cm深の温度測定も実施し、CO2フラックス分布との関係を調べました

10月9日は、昨日に引き続き銀沼火口内でCO2フラックスおよび温度の測定を実施しました。面的な分布を把握するために、火口内でほぼ等間隔に格子点を設定し、測定を行いました。さらに、フラックス分布に大きな変化が見られる領域で、測定間隔をより密に設定した測線での観測を行いました。また、代表的な観測点で、地中におけるCO2濃度を検知管式気体測定器で直接観測する実習も行いました。

10月10日は、前日までに測定したCO2フラックスのデータ解析を行い、地中温度、地中CO2濃度のデータと統合することで、CO2の放出をもたらす銀沼火口直下の地下構造などを調べました。


4.発表会・講評

最終日の10月11日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生たちは、6つのグループ(各3~4人)に分かれてそれぞれ発表し、また、活発な質疑応答が交わされました。最後に教員たちによる講評を行い、発表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。