火山研究人材育成コンソーシアム構築事業

ホーム > インタビュー&レポート
インタビュー&レポート
東北大学大学院理学研究科 理学部 地球物理学専攻 教授 西村 太志 NISHIMURA TAKESHI

1963 年愛知県生まれ。1992 年東北大学大学院理学研究科博士課程を修了、「噴火活動に伴う地震及び微動の発生機構に関する研究」で東北大学博士(理学)の学位取得。岩手山、磐梯山やアフリカのニイラゴンゴ・ニアムラギラ火山、諏訪之瀬島、スメル山(インドネシア)などの地震観測や測地観測を実施するとともに、火山性地震のデータ解析や理論的研究を進める。東北大学助手、ロスアラモス国立研究所客員研究員、アメリカ地質調査所文部省在外研究員、東北大学助教授を経て、2012 年より現職。日本火山学会理事。

火山災害軽減を目指し、次世代火山研究者育成プロジェクトがスタート
実施責任者の西村太志さん(東北大学教授)に聞く

平成26 年に発生した御嶽山噴火等を踏まえ、社会が期待する火山防災への貢献を目指し、日本の火山研究コミュニティが総力を挙げて、次世代の火山研究者を育成する文部科学省の事業「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」が平成28 年度からスタートした。「火山研究人材育成コンソーシアム構築事業」実施責任者の西村太志さん(東北大学教授)に、本事業の狙いと新たな取り組み、そして火山学の"今"について聞いた。


インタビュー&レポート

学際的な火山学を発展させ、火山災害軽減に貢献する人材を育成

-- はじめに、本事業の目的から教えてください。

火山災害の軽減を目指し、火山学の進展を図ることのできる次世代人材の育成が目的です。最先端の火山学研究を実施する大学や研究機関、火山防災を担当する国の機関や地方自治体、また、それらをサポートする民間企業からなるコンソーシアムを構築し、国内外の機関と連携を強めた最先端の火山学研究を進めるとともに、研究成果を社会に展開できる人材の育成を目指します。

-- 世界有数の火山列島である日本において、これまでも火山防災は重要であったと思いますが、なぜ今、このプロジェクトが立ち上がったのでしょうか?社会的要請と学術的な背景、二つの側面から教えてください。

2000 年代は火山噴火の少ない状況が続いていましたが、2014 年に長野県・御嶽山が突発的に噴火し60 名以上もの方が犠牲となり、火山研究をもう一段階進める必要があるという認識が高まりました。噴火予知の成功例としては、2000 年の北海道・有珠山噴火が知られていると思いますが、有珠山のように明確な噴火の前兆が見られる火山はごく一部で、多くの火山については噴火予知がまだ難しいのが現状です。本事業の推進により、将来的に噴火予知の精度向上を図る人材を育成することが求められています。また、火山噴火予知の現状を一般の方にも理解いただき、火山噴火による災害軽減方法を考えていただく機会にしたいと考えています。

火山の監視技術は1974 年の噴火予知計画発足以来、着実に進歩し、それに合わせて火山学の発展にも寄与してきました。主要な3学問分野である地球物理学、地質・岩石学、地球化学がそれぞれ独自に発展し、火山現象の理解を目指した結果、火山活動の状況が随分と明らかになってきました。さらに、調査観測や理論研究をもとに火山噴火機構の理論的なモデル化も進み、火山災害の軽減に活かせる糸口も見つかりつつあります。今、これらの異なる学問な分野を有機的につなげる融合的な研究が進んでいます。この新しい枠組みを教育分野まで拡げることで次世代の火山学を切り拓く研究者を育成し、多様な火山現象に対する理解を深めるとともに火山防災に貢献できる幅広い人材を育てたいと考えています。

学際的な火山学の新しい学び方

-- 本事業では、どのような人材育成を行うのですか?

まず火山現象に対する深い理解が、火山防災を考える上で非常に重要です。そこで本事業では、各大学で開講されている火山学関連の講義や実習をできる限り体系化し、主要3分野である地球物理学、地質・岩石学、地球化学を中心に、学際的な火山学を系統的に学べる環境を整えます。火山研究者は全国に約80 名と少数ですので、最新ウェブ技術を用いて遠隔授業環境を整備することにより、他大学の講義を履修できる試みも始めます。

さらに、火山防災に必要な技術について学べる教育環境を提供するため、社会科学や工学等の先生方にも協力いただき、各分野の基礎から最新研究動向・課題等までを説明していただくセミナーを実施します。例えば、火山砂防工学のように火山防災において重要な分野や、火山学の進展に必要な計測や数値計算等の技術を扱う工学等、これまで火山学を学ぶ学生にとっては学習機会のあまりなかった分野です。火山現象に対する理解を深めて噴火予知の高精度化につなげるだけでなく、防災関係への就職を希望するような、社会貢献意識の強い学生に対しても興味深いセミナーを提供していくつもりです。

また、国内外の様々な火山をフィールドにした実習も計画しています。現場でどのような観測あるいは調査が行われているかを理解することなしに、火山現象に対する理解は進みません。防災対策あるいは今後展開すべき有効な観測体制を考える上でも、観測の精度や限界を知ることは不可欠です。志を同じくする他大学の学生との交流機会にもなるでしょう。

本事業の対象は、主に大学院修士課程の学生です。研究を始めるにあたって基本的な考え方や技術を習得する時期に、社会との接点を考えながら研究を進めることや、自分の専門分野の他に隣接分野と連携する重要性を理解してもらいたいと考えています。2年間で全てのことをできるわけではありませんが、若いうちから様々な学問の魅力を知ってもらうことで、博士課程あるいは研究者になった時、隣接分野の知識を吸収することを厭わないマインドを育てたいのです。

学際的な学問を勉強する方法は、色々あると思います。専門性を極めた上で裾野を広げる方法もあれば、裾野を広げながら少しずつ高みを目指す研究アプローチもあると思います。これまでは各大学それぞれで勉強を進めていたので、専門性を追及する方法が中心でした。学生の皆さんには、本プログラムを利用いただき、自分に適した勉強の仕方や研究の進め方を見い出して、新しい火山学を創造してもらうことを期待しています。

日本人は火山のことをよく知らない

-- 「火山は簡単に噴火予知ができるという状況ではない」とのことですが、火山学では今、どこまでがわかっていて、何がわかっていないのですか?一般の方むけに、火山学の現状について教えてください。

適切な観測網を火山に設置することで、火山が通常とは異なる状態になったことはよくわかるようになりました。また、そこで何が起きているかを、地球物理学的に捉えることができるようになってきました。ただ、火山が本当に噴火するのか、あるいは、いつ噴火するかといったことについては、正確に答えるのはまだ難しいのが現状です。もちろん、噴火経験のある火山や典型的な火山現象、地下の火山活動の推移を示す場合については、ある程度、噴火時期を予想できます。しかし、経験の少ない火山も相当ありますし、火山活動や噴火メカニズムにはまだ多くのわからないことがあるので、研究の余地が大いにあります。さらに、避難する範囲を判断する上で不可欠な情報である「噴火の規模」を予測する方法については、ほとんどわかっていません。これまでは対象とする火山で発生した過去の噴火事例から考えていましたが、実際に得られる観測データからはよくわからない状況です。だからこそ本事業で育成する次世代が、他分野と融合しながら火山研究を進展させることで新しい知見を得、高精度な噴火予知や社会の求める防災対策に役立つ技術を生み出すことを目指すわけです。

-- これまでの経験則とは異なる火山現象の理解とは、どのようなものですか?

経験則は非常に重要で、それがあって理論的な枠組みができます。しかし、日本では桜島等も含めて1年間に噴火する火山は5つ程度しかなく、すぐに多くの噴火経験を積めないため、各火山の経験則だけでは他の火山に応用することができません。その間をつなぐのが地球物理学、地質・岩石学、地球化学の観測データの分析あるいは理論的な知見です。今まで積み重ねてきた経験をより一般化するために、様々な分野で研究を進めることで、噴火経験のない火山や新しい噴火が起こる場合にも応用できるようにする必要があるのです。

-- 日本には、噴火経験のある火山とない火山、それぞれどれくらいあるのですか?

日本には活火山が110あります。このうち気象庁が常時観測しているのは50火山で、その中でも「噴火経験が多い」火山は、桜島、有珠山、浅間山、伊豆大島、あとは三宅島くらいでしょうか。その中でも、三宅島は玄武岩質のマグマ噴火を繰り返し起こし比較的「よくわかっている」と言われていた火山でした。しかし、2000 年にはカルデラ形成という最近には経験のない噴火が起こったのです。また、地質学的スケールでは非常に多くの火山について調べられていますが、噴火予知には地球物理学的データをもとに考えることが必要ですので、よく調べられている火山は、「110ある活火山のうち10に満たない」と言えるでしょう。もちろん常時観測している火山では噴火していない時のデータも蓄えられます。しかし、噴火が起こらなければ、予測をするために必要な前兆現象の基本的なデータは蓄えることができません。つまり、我々の噴火経験は決して多くはないのです。

-- 噴火予知に必要な観測データとは、どのようなものですか?

火山性地震や山体変形をとらえる地震計や傾斜計のデータや、マグマの上昇を(熱くなるため磁力が失われることで)調べる電磁的探査データが、地球物理学的な観測データです。地球化学的なデータも重要で、温泉水や火山ガスの成分や量を調べることも、噴火の前兆を知るためによく使われます。

-- 理論的には、どのようにして火山現象を理解するのですか?

マグマの特性をもとに流体力学を用いて理解するモデルや、地殻や火山体を弾性体で表して、その中を流体のマグマが上昇することをモデル化したものがあります。マグマ上昇中に起きる山体変形や地震の発生、あるいは、噴火タイプを火道内マグマの特性の変化をもとに考えることができます。また、最近は噴煙の物理学も進み、火山灰が降下する領域を調べるための数値シミュレーション等も進められています。ただ、モデルは、観測データとの比較検討が必ずしも十分できていないのが現状ですので、まずは噴火の多い火山で検証しながら他火山へ応用していく必要があります。

-- 「噴火のタイプ」はどのように分けられるのですか?

噴火には様々なタイプ(様式)があります。その分け方はいくつかありますが、例えば、マグマが直接関与する「マグマ噴火」と、マグマは間接的に関与して起こる「水蒸気噴火」の大きく二つに分けられます。その中間のタイプもあります。また、規模や噴出するマグマの種類によって色々なタイプに分かれていきます。マグマ噴火については理論的なモデルに基づく数値シミュレーションもされるようになってきましたが、一方で御嶽山噴火のような水蒸気噴火についてはモデル化は進んでいません。ただ、マグマ噴火も多様ですので、一つの方法で理解できるとは思っていません。

-- 一般の方に一番伝えたいメッセージは何ですか?

日本は地震と火山の国とよく言われます。地震については、日本人は大地震を何回も経験しています。東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9という巨大地震でした。一方、火山については、大規模噴火は最近100年間、日本では発生していません。ですから日本人のイメージする火山噴火とは、おそらく地震に置き換えると、マグニチュード5や6クラスくらいのものでしかないのではないでしょうか?大きな被害が出るマグニチュード8や9クラスの大噴火については、どういうものかを日本人は知らないのではと心配しています。

-- 確かに、大地震も実際に経験して初めて理解することが多かったです。ちなみに、巨大地震と大噴火は関係がありますか?

地震と火山の相互作用があることはよく言われていますが、地震が起きれば必ず噴火が起こるわけではなく、確率が若干高まるということだと思います。例えば、宝永地震(1707 年)時に富士山が噴火した記録がありますが、他の火山は噴火しなかったわけですし、また、別の大地震が発生した時に富士山が噴火しなかったこともあるわけです。単純に一対一で対応しないのであれば、どれくらいの割合で起こるかという理解が必要でしょう。つまり、これまでの経験や理論的予測から現象を理解し「この程度のリスクがあるから噴火対策をする必要がある」という備えが大切だと思います。

研究成果を災害軽減へ結びつけるために

-- 本コンソーシアムでは、最先端の火山学研究を実施する大学や研究機関のほか、火山防災を担当する国の機関や地方自治体、あるいは民間企業に対しても、参加を呼びかけるそうですね。最後に、本コンソーシアムへの参加を検討中の機関にむけてメッセージをお願いします。

研究成果を如何に災害軽減に結びつけるか。それが、この次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト全体の大きな課題です。そのためには、実際に災害現場で活動されている地方自治体や国の機関の方の状況を知らないことには、適切な研究の方向性あるいは目標設定はできないでしょう。本コンソーシアムにぜひ参加いただき、若い学生たちに必要とされる情報や、災害現場の体制を理解できるような体験の機会を、ぜひ提供いただきたく存じます。あるいは、最先端の計測技術や情報伝達方法、火山防災等の知見を有する民間企業にもぜひ協力いただき、火山研究の底上げを図れるような環境を提供いただければ幸いです。

-- 西村さん、ありがとうございました。